2008年1月3日
北沢洋子

1.第15次IDA拠出金ドナー会議

 2007年12月はじめ、ベルリンで世銀の第15次IDA拠出金(IDA-15)についてのドナー国会議が開かれた。IDAは低開発国に対して無利子の長期融資を行う世銀グループの機関であり、先進国(ドナーたち)が贈与の形でIDAに拠出した資金を融資に充当している。
 ベルリン会議ではドナーたちは、2008年6月から始まる3年間に新たに251億ドルを拠出することを約束した。
 これによってIDA―15の資金総額は416億ドルとなる。これは前期のIDA―14が321億ドルであったのに比べて95億ドルの増加になった。今回ドナー国が約束した拠出金は前期に比べると42%増を記録した。IDA-15の内訳は、ドナーたちの新規拠出金に加えて、世銀グループ内の資金捻出分165億ドル(IDA借り入れ国からの返済分と、ドナーが世銀の債務帳消し資金にと約束した資金が加わる。 
 今回、IDA―15の拠出金では英国が米国を抜いて第1位になった。さらに新しく中国がIDA拠出国に加わった。
 ゼーリック世銀総裁は、「これはIDA史上、最大の拠出額になった。ドナーたちは、低開発国、とくにアフリカの貧困根絶と持続可能な成長達成を援助することを公約した」と礼賛した。
 しかし、ヨーロッパの市民社会は、ゼーリックの見方に反対している。
 第15次IDA拠出金に関しては、昨年秋以来、英国OXFAMなどヨーロッパの100以上の市民社会団体が13000人を超える署名をもって、「IDA融資に際しては、構造調整プログラムなどの条件を廃止せよ」と要求してきた。そして、世銀が融資、債務帳消し、化石燃料の開発などの「条件」を廃止するまで、IDA拠出金の支払いを止めるべきだと主張してきた。
 とくに、IDAの拠出金を倍増した英国政府に対しては、NGOは、増額については全面的に賛成しながら、一方では世銀グループの改革を促す最良のチャンスだと見ていた。しかし、英国ならびにEU各国政府は、その機会を逃してしまった。

 一方、ベルリン会議では、EU非加盟のノルウエイ政府が、市民社会の要求に応えて、IDA拠出金の25%増額分(420万ドル)を、世銀改革を条件に一時停止している。これについて、ノルウエイ教会エイドのAtle Sommerfeldt事務局長は、「ノルウエイ政府の政策は歴史的に評価されるべきだ」と述べた。

2.市民社会のODAの有効性評価 

 政府のODAについて監視を行う「CSO International Steering Group on Aid Effectiveness」は、2008年9月、ガーナのアクラで開催が予定されている国連の「援助の有効性についてのハイレベル・フォーラム」にむけて政策ペーパーを起草した。第1回のハイレベル・フォーラムは2005年、パリで開催された。
 政策ペーパーは、すでに2007年9~11月に、地域レベル、全国レベルでのCSO
によって論議されてきた。ペーパーの内容は、
www.betteraid.org/index.php?option=com_content&task=view&id=36&ltemid=26
でダウンロードできる。これは、ハイレベル・フォーラムに対するCSOのポジション・ペーパーとなる。

3.エクアドルが世銀の投資に関する紛争法廷から脱退

 ワシントンにある「International Center for Settlement of Investment Disputes(投資に関する紛争調停国際センター)」は、一応独立の国際機関だとされているが、実際には、世銀の下にあり、途上国に対して偏見を持っている。
 昨年4月、ボリビアのモラレス大統領は、同センターからの脱退を示唆していた。12月半ば、ボリビア外務省は、正式にセンターからの脱退を書面で通告した。
これによって、以後、センターから起訴されることはないが、これまでの法廷は続く。それは、2006年5月にロサンゼルスに本社があるオキシデンタル石油会社から提訴された事件である。同社はボリビア政府が契約をキャンセルしたために、蒙った損害として10億ドルの損害賠償をエクアドル政府に請求するとともに、油田の回復を求めている。オキシデンタル社は、エクアドル国内で、1999年以来、石油開発を続けているが、大規模な環境破壊事件を起こしてきた。明らかにオキシデンタル社はエクアドル政府と交わした発掘契約に違反している。

4.欧米の国会議員たちがIDAの融資条件について会合

 ノルウエイ、オランダ、英国、そして米国などの議会では、世銀IDAの融資条件についての審議が行われている。
 昨年11月20日、英国下院の国際開発委員会では英国国際援助庁と世銀の開発援助をめぐって審査が行われた。とくに英国はIDA拠出金を倍増させた。英国は2005~08年に14億ポンドを最貧国向けに援助を拠出している。

5.世銀はネパールに対して労働法の規制緩和を援助の条件

 昨年11月13日の『カトマンズ・ポスト』紙によれば、Praful Patel世銀の南アジア担当の副総裁が、ネパール政府に対して、「“Doing Business Labour Indicators”と称する労働法を改正しない限り、世銀は追加の支援金を出さないと警告した」と報道した。
 さらに、Patelは「世銀はネパールに対して追加の予算支援を提供する準備があるが、これには条件がある。しかし、労働法の改正が最も緊急な条件である」と語った。
 3年前、世銀はネパールの労働法の改正案を提起したが、当時の政府、労働組合、企業家たちに反対された。そして2005年、国王が全権を握り、2006年1月、世銀のネパール担当官は、国王にあてた手紙を送り、世銀が推進する労働法改正を執行しない限り、予算支援しない、と言った。国王はこれを実行したが、世銀にとって不幸なことに国王は その6週間後、民衆の蜂起によって権力を失ってしまった。民主的な新政権は、この法令を無効にした。
 世銀がネパール政府に強制しようとしたDoing Businessは、Employing Workers Indicator(EWI)にもとづいて作成されたものであり、ジュネーブのILOの理事会で取り上げられ、審議された。ILOの報告書によれば、世銀のEWIは、雇用と適正な労働を促進する投資環境と労働市場パーフォーマンスにとっては不十分な指標である、結論づけている。
 にもかかわらず、世銀はこの問題の法改正を最貧国において推進している。