2011年8月
北沢洋子
1.EU、IMFがギリシアに1,090億ユーロを追加融資
今年7月21日、ブリュッセルで開かれた「のユーロ圏17カ国」はギリシアに対して、1,090億ユーロの追加融資に合意した。この追加融資は、「ヨーロッパ金融安定化基金(EPSF)」とIMFが協調して実施することになる。追加融資分は、これまでの融資より低利とし、さらに返還期限も、これまでの7.5年から最長30年に延長された。
さらに、ギリシア国債を保有する銀行に対して、“自主的に”より長い期間のギリシア国債に再投資する、あるいは国債を市場で売らずに、EPSFの買戻しに応じることが“期待”された。この分は500億ユーロに上ると見込まれる。
実は、ギリシア政府に対する救済融資はこれがはじめてではない。昨年5月、EUはギリシアに1,100億ユーロの救済融資をしている。
IMF、EUのこのような巨額の追加融資は、ギリシアの危機を解決するだろうか。それは、疑問である。ブリュッセルにある民間のシンクタンクBruegel のエコノミストは、「ギリシア政府の債務を救済することなしに、多額の融資は役に立たないだろう」「ギリシア政府の毎年の予算を30%削減しても、GDPに占める公的債務の比率が60%までになるためには、2034年までかかるだろう」
政府が財政不足、国債の償還不能、すなわち「債務不履行(デフォールト)」に陥ったケースでは、先進国のユーロ圏ではじめてのことだった。これまでの30年間、「債務危機」と言えば途上国が独占してきた。
2.ギリシアの危機は銀行の危機であった
一般に、2001年に、ギリシアがユーロ圏に加盟したとき、ギリシア政府は、財政赤字をGDPの3%以下に収める、というEUの「規律」を満たしていなかった。そこで、ギリシア政府は、その年度の予算の中で、額の大きいプロジェクトの施行をその次の年度に先送りして、「3%」の規律をクリアしたといういきさつがある。これは、当時のギリシア政府のペテンであった。
EUに加盟後も、ギリシアは慢性的な財政赤字を抱えてきた。これまで、その理由として挙げてきたのは、「公務員の数が全労働者の4分の1を占め、賃金が高い」、「非効率の国営企業の比率が高い」、「ギリシアは財政規律のない社会主義国」など、というものであった。
実際には、ギリシアの債務の根源は、独裁政権時代、フランス、ドイツ、米国などから大量の武器を購入したことから始まった。のち、2004年に、アテネでのオピンピック開催の無駄遣いも債務の累積につながった。
ギリシア政府は、財政赤字を埋めるために、国債を発行し続けた。その結果、債務不履行の危機に陥った、とIMFやエコノミストはギリシア危機を解説している。
しかし、これは真実ではない。ギリシアの危機は政府の債務危機でなく、銀行の危機であった。
2008年以来、巨大な多国籍銀行は、「デリバティブ(金融派生商品)」や「毒入り資産(Toxic Asset)」などの発行に失敗し、デフォールトの危機に直面していた。秘密文書「Documntsii」によると、EUはパニックに陥り、緊急に首脳会議を開催した。そこでギリシア危機に対して、一連の「銀行救済融資(Bank Bail-Out)」を実施することになった。
どのようにして、EUは銀行を救ったのだろうか。それは、ギリシア政府が巨額の国債を発行することだった。こうして私的な「銀行の危機」は公的な「債務危機」と変じた。
マスメディアは、市場の反応として、ギリシアの債務危機を盛んに報道したが、その原因については触れていない。
従って、今日、なすべきことは、ギリシア債務の「監査」である。監査によって、ギリシアの公的債務の根源が明らかになり、これまでのマスメディアの嘘が暴露されることになる。
債務の「監査(Audit)」は、すでにエクアドルのコレア大統領が実施している。エクアドルでは、第三者による「監査委員会「Audit Commission」が、債務の「不法性(illegality)」と「不正当性(illegitimacy)」を証明した。そこで、エクアドル国債の保有者も交渉に応じる姿勢をしめした。2008年11月、コレア大統領はテレビに出演し、「監査委員会の審査の結果、2008年10月に利子の支払を凍結する」と発表した。たちまちエクアドル国債は、第二市場で簿価の30%下落した。2009年11月、コレア大統領は、「グローバル2012年もの、2030年もの国債の簿価の30%を支払う」と発表した。グローバル2012年国債の利子は12%、2030年ものは10%であった。国債保有者の95%が、国債を返納し、エクアドル政府に対して、訴訟を起こすものはいなかった。
エクアドルの例は、政府は国債の返済を中止することが出来、第三者監査委員会が設けられ、適切な報告書が出れば、良い結果を出すことが明らかになった。
マスメデイアとエコノミストの最も残酷な解決の提案は、ギリシアをIMFの管理下に置き、さらに歴史的遺跡を含めた国家の財産を民営化する、ということである。これは間違ったアドバイスだ。しかし、ギリシア政府はIMFとEUに、2013年までに、150億ユーロを民営化でもって作り出す、と約束している。
第1に、ギリシアの債務危機は、80年代、ラテンアメリカを襲った債務危機と非常に似ている。しかし、当時のラテンアメリカは、独裁政権下にあり、抗議し、情報公開することも出来なかった。
第2に、債務返済のために、新しく借り入れる、ということが、債務危機をもたらす原因である。これまで債権者は、巨大銀行、IMF、EU、ヨーロッパ中央銀行などでもって、強力なカルテルを結んでいる。つまり、債務者はギリシア一国に対して、強大な債権者カルテルが相対する。これは正しくない。債務者と債権者とは均等な立場で交渉すべきである。
第3に、格付け会社による陰謀がある。たとえば、ギリシアが第2回目の融資を受けることになったまさにその日に、ギリシア国債の格付けを下げた。これは、ギリシアをIMFなどの国際カルテルのもとに屈服させるためだ。
真実は、このような「債務システム」が非常に儲けの多いビジネスだということである。たとえば債権者は、国債発行国に知らせないで、いかなる市場でも、グローバルに、何回でも国債を取引き出来る。70年代から、すでに多国籍銀行は、保有している国債を、タックス・ヘブンで、規制が緩和されている第2市場で売買していた。
すべての株式取引所は、国債の売買について、公表するべきだ。しかし、銀行側は顧客の秘密保持の原則をたてに取って、公開を拒んできた。しかし、国債発行国は、債権者についての情報を把握すべきだ。なぜなら利子を払う相手だから。
ギリシア国債の保有者が、第2市場に簿価の60%で安く売ったとする。しかし、利子は簿価にもとづいて支払われる。その場合、ギリシア国債の利率が7%だとすると、実際の利率は11.6%になる。莫大な利益を挙げている。
このようなカラクリを調べるのは、「監査委員会」である。ギリシアでは、今年2がつ、民間で、「監査委員会」を設立し、独自にギリシアの債務の調査を開始している。この委員会は、
1.ギリシア政府は、危機に陥った銀行救済に、いくら支払ったのか。
2.ギリシアの債務累積に、ヨーロッパ中央銀行とヨーロッパ委員会(EC)はどのような責任があるか。
3.ギリシア国債が格下げされることによって、利率が高まったことに、格付け会社はどのような責任を持っているか。
4.IMFとEUは、ギリシア政府に緊縮政策を強いることに、どのような役割をはたしたのか。
5.① 銀行の不良債権の実態を隠し、過剰に報告したこと
② ギリシア国債を投機し、利率を上げたこと
③ デリバティブ、クレジット・デフォールト・スワップ、その他Toxicなペーパーを取り引きしたこと。
6.などに、銀行はどのような責任があるか。
ギリシアの債務の根源は何か。本当に、ギリシア政府、はこのような莫大な資金を実際に受け取ったのか。
7.私的な債務が公的な債務に転換したのはいくらか。元私的債務の額が国家予算に占める比率は。
などについて調査するべきである。