2008年1月3日
北沢洋子

 2007年9月19日付けの『ヘラルドトリビューン』紙によると、国連の潘事務総長と世銀のゼーリック総裁は、途上国政府が腐敗した政治指導者が盗み海外に送った資金を回収するのを援助するプログラムを発表した。そのために、「不正蓄財回収機構(StAR)」が新設される。
 途上国での盗まれた資産の総額は年間400億ドルに達すると予想される。これは、年間ODA総額に等しい額である。
 「貧しい人びとから盗む奴には安全な天国はない」とゼーリック総裁は宣言した。世銀によれば、犯罪、腐敗、脱税などによる国境を越えたグローバルな資金の流れは、毎年、1~1.6兆ドルに上る。その中で、秘密の銀行口座に預金されるのは数十億ドルに達するとみられる。「その中の一部でも回収できれば、貧しい人びとの社会保障費をまかなうことが出来る」と世銀総裁は語った。
 例をあげると、1億ドルを回収できたとしたら、400万人の子どもに無料の予防注射をすることができる。25万世帯に水道を引くことが出来る。年間60万人のHIVまたはエイズ患者を治療できる。
 盗まれた資産の問題は、とくにアフリカで大きな問題になっている。アフリカではGNPの25%、約1,480億ドルが腐敗によって消えている。
 国連と世銀が創設しようとしている機構は、途上国政府が盗まれた資産を追跡する能力を高める、あるいは、グローバルな金融センターがそれを探知し、資金洗浄を防ぐ能力を高めることを援助する。
 世銀のDanny Leipziger貧困削減・経済運営担当副総裁は、「これは、途上国の問題にとどまらない。なぜなら、これら資金は最後には先進国に向かうからだ」と言った。また、世銀は、途上国政府がこれら回復した資金を確実に開発に使用するために努力するのを支援する。なぜなら、「これら資金が2度も盗まれることになるからだ」とLeipziger副総裁は語った。
 このプログラムは、国連の「薬物犯罪事務所(UNODC)」と共同で開発されてきた。アントニオ・M.コスタ事務局長は、「金融取引が極めて複雑化しているので、これら資金の回復は難しくなっており、専門家の援助が必要になっている」と語った。
 ナイジェリアはスイスからアバチャ元大統領の5億500万ドルの不正蓄財を回収したことがある。当時のNgozi Oknonjo-Iweala蔵相は、「今度の国連と世銀の新プログラムは腐敗した役人がどこに隠したかを白状しない場合、非常に役に立つし、さらに、どこに隠しても追跡されて取り戻されるから無駄だと知るだろう」、2005年に彼女が資金の回収をはかったときには、国際的に誰もバックアップしてくれるものがなかったので、迅速な回収は困難だった」と語った。
 2005年12月、「国連腐敗防止条約」が発効した。しかし、いまだに98カ国が批准していない。その中には、カナダ、ドイツ、インド、イスラエル、イタリア、日本、スイスなどが入っている。またIMFがオフショア金融センターと定義した54カ国の中で、13カ国、領土が批准していない。それらは、英領ガーンジー島、マン島、カリブ海ではバーミューダー、バハマ、ヨーロッパではリヒテンシュタイン、モナコ、太平洋ではサモア、バヌアツ、その他ジプチ、マレーシア、バハマ、米国などが入っている。
 StARは、これらの国に対して、早急に批准するように促している。