2010年4月30日
北沢洋子

 2008年、米国のサブプライムローンの破産によって引き起こされたグローバルな金融危機の際、米国、ヨーロッパ、日本、中国などは、財政出動して巨額の救済融資を金融機関に行なった。これは、なぜ政府は大銀行だけを救済するのかという素朴な疑問が人びとの間に起こり、米国などでは、「No Bailout Banks, Bailout People」と言うスローガンでもって、抗議デモが繰り広げられた。
 同時に、危機の原因は金融資本による過度のスペキュレーションによるものであるとして、これを規制するには、「金融取引税(FTT」を課すべきだというキャンペーンも広まっていた。
 このような状況のなかで、このほど「グローバルな金融危機に際して、政府が大銀行に行なった救済融資を回収するために、当該銀行に税を課すべきだ」というIMFの報告書がBBC放送によってリークされた。これによって、金融機関に課税せよというキャンペーンがにわかに政治的課題として浮上してきた。
 IMFのモデルでは、公正な、相当額の「金融安定化寄付金(FSC)」を金融機関に課税する、という案で、「これら金融機関の破産が経済に与える打撃度にもとづいて」実施されるとしている。
 IMFのFSC案は、徴収したFSCを、弱体な金融機関を救済するための「基金」に備蓄されるか、あるいは、税収一般に入れられる、というものである。
 IMFは当面のところ、「FSCはすべての金融機関に一律に課税されるが、その後、金融機関のリスク度、あるいは構造的なリスクにつながると判断されるものに限定されるだろう」と言っている。
 さらに、IMFの報告書は、銀行の利潤や給料に課税する「金融活動税(FAT)」を提案している。この提案は、一応歓迎されたが、金融スペキュレーションを抑制するために「金融取引税(FTT)」の導入を要求している人びとにとっては、不満であった。IMFは、「FTT問題はG20の首脳たちからIMFに委託された事項から外れている」と言う。
 ワシントンにある政策研究所のサラ・アンダーソン・グローバル経済プロジェクト主任は、「FTTは金融スペキュレーションを抑制するためで、これと金融機関に対するFATとは決して対立するものではない。FATもFTTも同時に導入可能だ」と語った。
 「OXFAM International」は、IMFが提案しているFATは一歩前進だと支持しているが、同時に報告書に欠けているものとして、2つの点を挙げている。第1は、IMFがFATで集めようとしている金額は、年間せいぜい70~110億ドルであり、金融危機が引き起こした苦痛や銀行が危機で儲けた金額に相当する額でない。第2に、FATは、貧しい国を援助し、気候変動と闘うために使われると、まったく言っていない点である。
 このIMF報告書は、4月末、ワシントンで開かれるIMF・世銀の年次春季総会でのG20の蔵相会議で検討される。報告書は機密文書で、G20の蔵相たちに対する助言となる。
 FAT、FSC、FTTなどの導入に関する議論は昨年秋のピッツバーグG20以後に起こった。G20の蔵相たちは、金融危機を克服するために各国が巨額の救済融資を金融機関に対して行なったのだが、この公的資金を回収するための方策についてIMFに助言を求めたといういきさつがある。
 いかにこの救済資金を金融機関から回収するかについて、米国とヨーロッパとの間に違いがある。ヨーロッパでは、金融機関のスペキュレーションを規制する「FTT」の導入を支持する国が増えている。しかし、IMFの報告書では、「ヨーロッパ委員会(EC)がFTTを金融市場の効率を損なう恐れがあるとして、FTT支持が後退している」と言っている。
 しかし、サラ・アンダーセンなどのFTT支持派は、IMFやECの意見に反対であり、「FTTは金融機関による大規模なスペキュレーションを対象としており、中産階級の一般投資家を対象にしていない。彼らはFTTの影響をほとんど受けないだろう」と言っている。