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2009年7月22日
 

1.ラクイラのG8サミット

 7月8~10日の3日間、イタリアのラクイラでG8サミットが開かれた。ラクイラは今年はじめから4月にかけて、震度3~5の地震に襲われた。ベルルスコーニ首相がこのような土地でG8サミット開催を決めたことについて、内外のマスメディアは批判的であった。
 ラクイラのG8サミットは、経済危機についての国連総会と、京都議定書の期限切れにともなって新しいグローバル協定を作成するという2つの国連会議に挟まれた形になった。
 またG8サミットは、ブッシュ時代の米国が組織した「メジャー経済フォーラム(MEF)」と重なってしまった。しかし、これも2007年のバリ島での気候サミットで決まったロードマップを全く前進していない。
 サミットの最終コミュニケには、1)食糧の安全保障、2)気候変動、3)金融規制、4)開発資金など4項目が織り込まれた。
 しかし、EURODADや英国のジュビリー債務キャンペーンなどなど多くのNGOは、これらは全く目新しいものはなく、すべてこれまでの公約を繰り返したに過ぎないと批判した。イタリアのNGOのCRBM(世銀改革キャンペーン)は「G8サミットは、自らが課した目標を達成することに失敗し、もはや“時代遅れ”の存在になってしまった」と述べた。

1) 食糧安全保障につて

 一言で言えば、食糧投機について、何の行動も提起していない。
 G8コミュニケでは、向こう3年間、総額200億ドルの食糧安保資金に合意したといっている。しかし、その資金は曖昧になっているが、新たに公約した部分は少ないようだ。
 農業開発については、G8と世銀がイニシアティブをとると言っているが、新規の資金は、「飢餓に対する闘い」のために使われることになっている。
 確かに、食糧価格は2008年のピーク時から見ると、下落しているが、過去の価格から見れば依然として高く、価格変動は激しい。しかし、G8は、食糧問題の解決は貿易の自由化と、僅かな資金提供でしかない。
 G8コミュニケは、「市場は開放されていなければならない、保護主義は排除されねばならない、投機など食糧価格の変動をもたらす要因については、監視と分析を続けねばならない」と述べている。市場の自由化についての文章に比べて、投機については曖昧な文言になっている。
 200億ドルの資金については、G8は脆い低開発国が自身の食糧安保戦略の策定を開発し、実行するのに使われることになっている。G8は、国際金融機関と共に。途上国自身のプロセスと計画にたいして、技術を含めた援助を約束した。
 ケニアのNGO、ActionAidのAngela Wauyeは、「G8は10億人の飢えた人びとを見放している。我々の試算では、ミレニアム開発ゴールを達成するためには、1年間に230億ドルの資金が必要である」と語った。

2) 援助の約束は繰り返されたが、国別に対処する方針は変わらない

 2005年のグレンイーグルスでのG8は、「2010年までにアフリカへの援助を倍増する」という決議をした。この点について、ベルルスコーニ首相は主催国としての任務を放棄した。反対に、イタリアはサミット開催時までに、ただでさえ少ない援助を半減させたのであった。Meles Zenawiエチオピア首相は、「我々にとって関心があるのは、G8が公約を維持することだ」と語ったことが、マスメディアに広く引用さらた。
 このような批判を予想して、G8はサミット以前に、「G8予備アカウンタビリティ報告書」を発表した。これは、食糧安保、水、医療、教育などの分野での公約の達成がしめされた。
 統計や公式のコメントが付いているこのような報告書が出たのは、良いことだ。しかし、これは信用できるだろうか?NGOはそれらの数字は部分的であり、局部的である。英国のNGO、ActionAidは「報告書には、4年前のG8がアフリカ援助を倍増するという公約は、150億ドルも不足していると指摘している。
 今年のG8コミュニケでは、単に「グレンイーグルスでの公約の達成を再確認する」と書いてあるだけだ。どの国が、どれだけ、何時までにゴールを達成したかということは全く捨象されている。米国、日本、カナダ、ドイツ、英国はアフリカ援助を倍増したが、フランスとイタリアが減少させたので、相殺された。
 主催国イタリア政府はG8で、援助の目標についての政治的な議論を避けようとはかった。かわりに、開発への貢献を総合的に評価することに努めた。
 G8コミュニケには、「投資、貿易、債務救済、持続可能な債務融資、マイクロ融資、送金、パートナー国の国内資金などを総合的に評価し、先進国と国際金融機関の開発融資
を減らす方向に持って行くべきだ」と述べている。
 G8は、OECDに対して、2010年のG8サミットまでに、以上の項目について、報告書を作成することを、命じた。
 コミュニケには、脱税と非合法な資本逃避について、2パラグラフほど費やされている。
G8は途上国政府が近代的な税制、関税制度を確立し、税収の増加を図ることについて、支援していくと述べている。

3) 気候変動

 G8サミットでは、気候変動については、2050年の目標に合意しただけだった。
 このことについて、とくに播基文国連事務総長が、2020年の目標値が書かれていないことを批判している。
 もう一つの憂慮すべき点は、基準となる年度が不明なことである。コミュニケには、「先進国が温室ガスの排出を2050年までに1990年、またはより最近の年に比較して80%減らす」と書いてある。この「またはより最近の年に比較して」というフレーズが問題である。これは、米国が1990年以来、急速に排出を増加させてきた。
 これで、G8すべての国を満足させることになった。そんな曖昧なコッミトメントであるならば、むしろないほうがよい。

4) 経済。金融の規制について

 将来、このような金融危機が起こるのを防ぐためには、国際規制がひつようである。しかし、G8コミュニケは、その1ヵ月前に開かれたイタリアのレッチェでの蔵相会議で合意された範囲に留まった。レッチェの枠組みを有効にするためには、G8は「各国政府の最大限の参加をはかり、迅速にその実行を決意する」と書いてある。G8は「目的の達成のために、G20とその他を含めた幅広いフォーラムでの国際協力を惜しまない」と述べた。この「G20とその他」というのは、漠然としているが、実は「世銀、IMF、WTO、ILO、OECDなど」を意味する。

5) G8は存在価値があるだろうか?

 イタリアのNGO「Peace Round Table」のFlavio Lotti代表は「イタリア政府はG8開催のために、4億ユーロを使った。これは年間3億2,100万ユーロの開発援助を上回る額だ」と語った。
 これに対して、G8は「これは我々の政策の効率を高めるもので、何百万もの人びとを救うという有効な投資だ」と言っている。
 ここに、立場が異なる2人のベテラン・ジャーナリストの言葉を紹介しよう。
 Simon Johnsonは『New Republic』誌で、「正直に言って、今日、ラキイラ・サミットは何もま新しいものはなかった。こんなものならば、副大臣レベルでの電話会議で間に合う。コミュニケは内容がない紙切れにすぎない。新興市場国が台頭するにつれて、G7は消え去る。米国とその同盟国たちの製剤政策はほとんど失敗した。むしろEUのほうがうまくやっている。重要なのは、G20であって、もはやG7ではない」と書いている。
 Quentin Peelは『フィナンシャルタイムズ』紙に、「G8は、金持国のリーダーたちが“暖炉の傍の議論”として、非公式に組織されてきたはずだった。ところが、何千ものスタッフ、治安警察、政策アドバイザーが動員されることになってしまった。それについて回るメディアのサーカスどもも忘れてはいけない。G8は分厚いコミュニケを発表するが、内容は空っぽだ。そして、未曾有の金融・経済危機のなかで、その解決については、ライバルのG20に乗っ取られた。ラキイラでのベルルスコーニ首相は、朽ち果ててゆく組織の最後の大狂想曲を指揮した」と書いている。
 

2.世界の金融・経済危機とその開発への影響ついての国連総会

 「世界の金融・経済危機とその開発への影響についての国連総会(以後国連危機総会と略す)は、6月24~26日、ニューヨークの国連本部で開催された。
 この国連危機総会の開催は、2008年12月、カタールのドーハで開かれた国連開発資金サミット5年後のフォローアップの会議で、グローバルな金融・経済危機の解決と新しい国際秩序の確立を議論する場として決議された。
国連は192カ国がすべて平等に参加する国際機関だが、ここでは米国、EU、日本などの先進国が、あらゆる妨害をした、というところに特徴がある。先進国は自らを「責任のある少数派」と称し、多数派の途上国が失敗の原因を自分たちに浴びせるのを嫌った。
 G20は、中心部の金融危機であって、周辺には僅かな影響しか与えない、と考えているが、食糧価格の高騰で、1日1ドル以下の貧困が、新たに10億人増えた。

1)準備会議での南北対立

 ここでは、4月にロンドンで開かれたG20サミットと異なり、192カ国が南北ともに平等の立場で、NGOにも開かれた会議であった。準備会議では、途上国はグローバルな金融・経済システムの内容のある改革を議論することを主張した。しかし先進国は、国連およびこの国連危機総会の役割を矮小化しようとした。
 この会議の議長を務めたのは、国連総会議長であったニカラグアのMiguel D’Escoto Brockmann国連大使であった。今年はじめ、D’Escoto大使は、総会議長の名において、ノーベル経済賞受賞者のジョセフ・スティグリッツ教授を代表とする専門家委員会を設立した。そしてスティグリッツ教授は「国際通貨・金融システム改革について」報告書を国連危機総会に提出した。
 準備会議では決議草案が起草された。ここでは、130カ国にのぼる途上国「通称G77グループ」は、草案の中に、危機解決の主要な役割を国連に与えることを強く主張した。それは、グローバルな金融・経済システムの改革が前提となるとした。これに対して、米国とEUなおの先進国はこれを阻止しようとした。
 準備会議には、D’Escoto議長独自の草案を提出して、皆を驚かせた。最後には、総会の3人の副議長の草案とすり合わせすることなった。D’Escoto議長はまた、国連危機総会の開催を、充分なコンセンサスをつくるには時間が必要だとして、3週間延期した。先進国は、この先例にない動議を受け入れたが、「彼は過激な改革と、国連の役割強化のチャンピオンである」とメディア・キャンペーンを行なった。
 この論議は白熱した。そして、大臣や首脳が到着する2日前に、D’Escoto議長とオランダ、セントビンセント、グレナダの副議長との間に妥協が成立した。
意外なことに、これに対してすべての加盟国が賛成した。なぜなら、あまりにも南北間の差が大きいので、どちらもテキストについての議論の口火を切ろうとしなかった。なせなら交渉を妨害したと非難されるから。そして、テキストは、そのままハイレベルの代表たちの議論に委ねられた。
 この経緯で、国際金融機関のガバナンスと政策に関する改革、グローバル経済理事会の創設、グローバルな準備通貨の創設につながるIMFの「引出権(SDR)」の拡大など、スティグリッツ報告書で提起された「包括的な改革」をG77グループが一致して支持していることが明らかになった。

2)国連危機総会の決議

 国連危機ハイレベル総会で合意した最終決議は最も具体的な提案部分が先進国によって削除されたものとなった。しかし、途上国が提起した最も重要な項目は決議の文言の中に組み込まれた。この総会のフォローアップの過程で、国連の役割は拡大するであろう。
 決議では、「大恐慌以来の最悪の金融・経済危機」という規定がなされた。金融危機とグローバルな不平等が、食糧危機、エネルギーと一次産品価格の変動、気候変動をもたらしたことが強調された。
 この責めは先進国側にあり、国際経済システムに対する信頼が失われた。市場に対する極度の依存、そして金融規制の欠如が確認され、市場と公共の利益とのバランスを確保するために政府の有効な介入が必要である、などという点が確認された。
 確かに、草案に比較すると決議の語彙のトーンは弱められた。しかし、以下の2点でこれまでの国連決議に比較すると前進が見られる。
 第一に、途上国の「政策スペース」の必要性が強調された。これは、途上国がIMFなどの介入なしに、開発政策、国内産業を保護する貿易政策、一時的な資本規制などを独自に決定する権利のことである。この点について、米国などがいくつかのパラグラフについて保留した。
 議論が白熱したのは、「IMFのコンディショナリティ」であった。多くの途上国がフロアーから反対のスピーチをした。IMFでは、途上国の発言は制限されているが、すべての国に発言の機会があるのは国連である。草案にはIMFのコンディショナリティについては続ける必要があるとなっていたが、決議では「IMFのこれまでの、また新規のプログラムには、不法なコンディショナリティが含まれないこと」となった。
 第2の争点は、ドルに代わる「国際準備通貨」の創設についてであった。この言葉は一時的に使われたのだが。現在のSDRの拡大は流動性を高め、危機の再発を防ぐことに役立つであろうが、より有効で効率の良い準備システムの研究を続けていくことになった。
 決議には、新たらしい行動の提起がなされなかった重要な項目があった。例えば、国際金融機関の「ガバナンス改革」については、「緊急を要する項目」としながら、タイムテーブルは4月のG20の文書をコピイしたものであった。しかし、「途上国の公平かつ平等な代表権の確立」という文言が、これまでG24が世銀で、「貸し手と借り手が平等に発言権と投票権を持つ」という主張を前進させた。
 先進国の政策立案者たちの関心事である「金融セクターの改革」については、決議は数パラグラフしか割いていない。「金融安泰か理事会」や「バーゼル委員会」など銀行を監視し、国際基準を確立する機関については、「メンバーシップの検討」と「途上国の代表を“適当ならば”加える」となっている。
 脱税と資本逃避については、この危機総会に「Tax Havens(税の回避地)」の国々が大代表団を送り込んできたので、この問題がほとんど議論されなかったことは不思議でない。一般的に各国が「情報を交換する」という表現に留まった。いずれにせよ、ドーハの国連開発資金会議+5で決まった国連の税問題委員会についても、何ら新しいコミットメントはなかった。
 WTOでの「貿易交渉」については、「ドーハ・ラウンドを完成させる」としか述べられていない。
 「ODA」については、ドナー国はODAをGNPの0.7%までに増大する時刻表を依然として示そうとしなかった。ドーハで議論された「緊急の融資または援助」についても、ほとんど触れられていない。
 EUやその他の国が「援助の効率性の冠するパリ宣言」と昨年ガーナのアクラでのフォローアップ会議で採択された「アクラ行動アジェンダ」を決議の中に盛り込むことを強く要求したが、OECDによるプロセスを嫌う途上国の反対で受け入れられなかった。
 「革新的な資金(トビン税など)」については、1パラグラフだけ触れられた。そして、多くのNGOの強い要求により、これはODAの不足分を代替するものでなく、新たな追加の資金である、と述べている。
 新たな「債務危機」の発生が不可避であるという警告があるにも係らず、何も合意しなかった。ただ、債権者と債務者が合意した場合に限り、「一時的な債務支払い停止」が可能だと書いてある。ドナーは、ODAを贈与、または無利子で融資することが望ましい、となっている。しかし、G20が約束した「新しい資金」は、IMFを通じて融資の形になる。
 スティグリッツ報告書にあった、「政府の債務についての新しい破産法廷」の設置は、受け入れられなかった。
 90年代の国際金融機関による「HIPCsイニシアティブ」が僅かな債務帳消しにとどまり、過酷なコンディショナリティを課したことに、批判が集中しているにもかかわらず、「現存の枠組みと原則」を維持する、と書いてある。しかし、「国際協力によるより良い構造的な枠組み」を模索して行く必要がある、と言う文言があるので、NGOはこれまで主張してきた「公平で透明性のある国際債務の解決メカニズム」について、キャンペーンを強めていくことが出来る。
 「気候変動」では、「12月、コペンハーゲン・サミットで取り組む」ことになっている。G20のコミュニケと同様、言葉は非常に弱い。

今後の見通し

 この決議のフォローアップンのために「アドホックな、無制限な作業部会」の設立が決まった。これから、この作業部会の仕事に関心が集まるだろう。この作業部会は、国連総会が始まる9月からスタートする。
 決議の中には、「国連経済社会理事会(ECOSOC)」に、更なる勧告をすること、ならびに「世界の経済危機とその開発への影響」についての「アドホックな専門家パネル」の設置の可能性をさぐる、という仕事が与えられた。
 米国など先進国は、国連が経済問題を論議することに反対している。米国代表は、会議の後、記者会見で「国連は準備通貨システム、国際金融機関、または国際金融アーチテクチャーのような問題を議論できる人材もいないし、また正当に信託されているわけではない」と語った。しかし、G20の方が、自薦したのであって、正式な信託はない。