2010年4月30日
北沢洋子

1.ハイチの債務を直ちに帳消しに

 昨年、2009年6月、ハイチはIMF・世銀の「重債務貧困国(HIPC)イニシアティブ」により「完了点」に達した。これは、IMF・世銀の構造調整プログラムを忠実に6年間にわたって実行してきたことを意味する。そこで、IMF・世銀は総額12億ドルの債務削減を行なった。しかし、これは債務総額19億ドルの3分の2に留まった。なぜなら2004年以前の債務しか削減されなかったためである。19億ドルの中には、米州開発銀行(IADB)の5億1,100万ドルが入っていた。
 そして、その1ヵ月後、昨年7月に開かれたパリクラブ会議では、カナダ、ベルギー、デンマーク、フランス、ドイツ、イタリア、オランダ、スペイン、英国、米国など債権国が総額2億1,400万ドルの債務の帳消しに合意した。
 現在、ハイチは6億4,100万ドルの対外債務を抱えている。なかでもIMFに対して、2012年以降の5年間で5,000万ドルを優先的に返済しなければならない。
 IADBは、これまで中南米・カリブ海地域を融資の対象にしてきたが、IMF・世銀のHIPCイニシアティブの枠外に置かれてきた。地震後、1億2,800万ドルの債務帳消しを決定した。しかし、依然としてハイチの最大の債権者であり、その額は4億4,100万ドルにのぼる。IADBの理事会は、ハイチに対するこれからの援助は無償であるべきだということに賛成した。
 しかし、2010年中に、ハイチは1,000万ドルをIADBとIMFに返済しなければならない。
地震後、世銀は1億ドルの贈与を行なうことを発表した。またハイチの世銀に対する3,800万ドルの債務については、今後5年間、返済を猶予することを発表した。
 Jubilee South は、「ハイチに対して緊急に援助が必要であるが、同時に、これまでハイチの貧困が悪化したのは何世紀にわたる国際社会の責任である」「したがって、ハイチの汚い債務を直ちに帳消しにすべきである」と声明を行なった。

2.IMFがハイチに融資

 IMFはこれまでハイチに「Extended Credit Facilities」のもとで1億7,800万ドルの支援プロジェクトを展開してきた。地震以後、新たに1億ドルの融資を追加することを発表した。この融資は、長期間、無利子というソフトローンではあるが、ハイチにとっては新たな債務増となる。
 ハイチが国際社会から緊急援助を受けている一方で、同じ国際社会に対して債務返済を行なうことは、正義にもとることであり、今後、悪しき前例となる。
 IMF自身、債務救済を実施した後の昨年7月に「ハイチの債務負担増加の危険は高い。したがって、新規の借り入れ政策については、慎重に実行すべきだ」といっている。といいながら、ハイチに融資を行うということは、自己矛盾ではないか。ハイチは、これから数年にわたって国家財政から債務の返済を優先させねばならない。
 さらに、ストラス・カーンIMF専務理事は、ハイチの地震直後、「国際社会はハイチの包括的な債務帳消しを行なうべきだとし、今後、ハイチに対する援助はグラント(無償)であるべきだ」と言った。これに対して、IMFのスポークスマンは、「IMFが国際社会に債務帳消しを呼びかけたのではない」「新規のローンについても、理事会で承認する前に、一部の理事が言っているように、帳消しすることは出来ない」と慌てて打ち消した。
 さらに、IMFの融資には「条件」が付随している。それによると、ハイチ政府は、電気料金の値上げ、公務員の給料値上げ禁止、インフレ抑制などを実施しなければならない。
 今日、ハイチに緊急に必要なことは、債務の完全帳消しであり、かつ大規模な、条件が付いていない、無償の援助である。

3.パリクラブ/モントリオール国連ハイチ支援会議

 地震後の1月20日、パリで、ハイチの債権国19カ国の大蔵省代表者が集まって、非公式のパリクラブ会議を開いた。ここでは、ハイチの債務削減が呼びかけられた。
 これまで、ハイチは、年間5,000万ドルの債務返済を強いられてきた。これは利子の返済だけで、元金の支払いではない。
 さらに、1月25日、カナダのモントリオールで、国連によるハイチに対する閣僚級の支援会議が開かれた。日・米・EUなど20カ国と世銀・IMFなどが参加した。会議は今後10年間にわたるハイチの支援を決めた。
 クリントン国務長官は1億ドル、日本は7,000万ドルの援助のコミットメントがあった。モントリオール会議では、ハイチ援助に「条件をつけない」ことに合意した。
 しかし、IMFはストロス・カーン専務理事の声明を忘れたかのように、債務帳消しの話は出さず、単に、5年間の返済猶予を決めただけだった。

4.ハイチに対する各国の債務帳消し

台湾
 1月9日、台湾の馬英九大統領は、ハイチの債権をもっているのは、市中銀行であるとしながらも、9,100万ドルの帳消しを行なうと述べた。

ベネズエラ
 ベネズエラは、これまでハイチ必要とする量の石油を供給してきた。したがって、ハイチに対する最大の債権国であった。その債務1億6,700万ドルを帳消しにした。
 AFP通信によれば、1月25日、折から開かれていたALBA貿易同盟の外相会議の閉会式で、チャベス大統領は「Petrocaribeはハイチの債務を帳消しにする」と発表した。 
 Petrocaribeとはベネズエラの石油を割引して、カリブ海地域に輸出する国営企業である。Ptrocaribeには、ハイチ、ドミニカ共和国のほかに、アンチグア・バミューダ、バルバドス、バハマ、ベリーゼ、キューバ、ドミニカ、エルサルバドル、グレナダ、グアテマラ、ギアナ、ホンデュラス、ジャマイカ、ニカラグア、セントキッツ・ネービス、セントルシア、セイントビンセント、グレナディネス、スリナム、トリニダッド・トバゴ、そしてベネズエラが加盟している。またALBA貿易同盟とは、2004年、ベネズエラとキューバによる地域共同市場である。
さらに、ALBAの外相会議では、ハイチに対する衛生、エネルギー、金融、教育などのパッケージの援助を決定した。
 また、ALBA外相会議では、「ハイチに、国際法に基づかないで、目的、役割、駐留期間も明らかにせずに、過剰な外国軍隊が駐留することを危惧する」ことも声明に盛り込まれた。そして、ハイチ政府と国連が復興にイニシアティブを発揮することを、呼びかけた。
 Petrocaribeは、石油市場価格が50ドルを超えた場合、40%を値引きする。さらに、この石油代金は年利子1%、25年に亘って支払うことが出来るというものである。
 1月12日の大地震以後、ベネズエラは隣国のドミニカ共和国を通じて、ハイチに22万5,000バレルの石油を供与している。
 ベネズエラに対するハイチの債務は2億9,500万ドル、ハイチの債務総額の約3分の1を占める。これを帳消しにすることを発表した。
 チャベス大統領は、今回の債務帳消し政策について「ハイチはベネズエラに債務を持っていない。逆に、歴史的にベネズエラはハイチに借りがある」と説明した。これは、1804年にフランスから独立したハイチが、1815~16年のシモン・ボリバールのベネズエラ独立運動に支援したことを指す。

5.ハイチ移民を保護せよ

 Jubilee USAは、米国内に滞在するハイチ移民に対して、「Temporary Protective Status (TPS)」を与えることを要求している。これは、米国政府がハイチ移民ですでに収容所に入れられており、強制送還の恐れにある者、あるいは強制送還の危険のある30,000人のハイチ移民を保護する法律である。TPSは米国の国土安全保障省が、移民の出身国が武力紛争、環境災害などのよって、安全な帰還が出来ないと判定された場合、保護するという措置である。

6.米議会、「責任のある融資法」を上程

 昨年12月16日、米下院に超党派で「責任のある融資と拡大債務削減」ジュビリー法案(HR4405号)が上程された。
 この法案は、これまでのHIPCイニシアティブの対象から除外されていた22カ国に対して新たに債務削減を行なうこと、害のある条件を廃止すること、過去の汚い債務についての監査を行なうことなどが盛り込まれた。

7.はげたかファンドに対する判決

 昨年12月1日、ロンドンの法廷は、リベリアに対する2つの「はげたかファンド」の提訴を認める判決を下した。
 総額2,000万ドルにのぼるリベリア債権は、1978年に遡る古い債務である。
 リベリアは世界で最も貧しい国15カ国に入っている。判決によってリベリアがはげたかファンドに返済しなければならない2,000万ドルは国の教育費の105%、医療保険費の155%に当る。
 米国では、Maxine Waters民主党カルフォルニア州下院議員とSpencer Bachs共和党アラバマ州選出会員議員によって「はげたかファンド禁止」法案(HR2932号)が下院に共同上程された。