2011年9月
北沢洋子

 米国の「政府監査院(GAO)」は、独立した機関であり、議会の中に置かれ、議会の要請にもとづいて、連邦政府の税金の使途を監査し、その結果を議会に報告する。私は、ジュビリー・キャンペーンの時、GAOから「日本の債務帳消しについての資料を欲しい」というメールを送られたことがある。

 これまで、数ヵ月にわたって、GAOが、「Ron Paul-Allan Grayson修正法」にもとづいて、日銀に相当する「米連邦制度理事会(FRB)」の監査を行なってきた。Ron Paul-Allan Grayson 修正法とは、2010年7月に採択された、「ウオール街の改革と消費者保護を目指すDodd-Frank 法」についての修正法で、とくにFRBの融資に関する調査をめざしたものである。すべて、これら法案は提出した議員の名を冠している。
 GAOに対して、FRBの監査を提起したのは、共和党のJim DeMint と無所属のBernie Sanders上院議員であった。しかし、議論の中で、要請文の文言は薄められ、FBRの完全な監査とまでいかなかった。とくに、証人として出席したFRBのバーナンキー議長やグリーンスパン前議長、それに大銀行の頭取たちが、監査にはげしく反対し、「監査結果は金融市場にマイナスになる」と嘘を並べ立て、議員たちを混乱させた。
 いずれにせよ、FRBに対する監査は行なわれた。これは、FRB100年の歴史の中で、初めてのことだった。監査の全文は、Sanders 議員のウエッブサイトに載っている。
監査の結果は驚くべきものだった。2007年12月から2010年6月の間に、FRBが大銀行、大企業、政府に対して、16兆ドルにのぼる天文学的な救済融資(Bail-Out) を秘密裡に行なってきた。それは米国に限らず、フランス、スコットランドなどあらゆる地域にわたっている。しかもこれは、利子がゼロという融資の形をとっていた。しかも、これまで、返済したものはいない。
 FRBが、なぜこのような16兆ドルにのぼる融資を、メディアばかりでなく、議会に対してまで秘密にしてきたかというと、一般のアメリカ人が職を探すのに苦労しているのに、FRBが外国の銀行に無利子で救済融資をしているとわかれば、怒り狂うことは必定だった。
 16兆ドルという数字を考えてみよう。米国のGDPは、14.12兆ドルである。200年にわたる米政府の債務総額は、14.5兆ドルである。現在、議会でホットな議論をしている年次予算は3.5兆ドル、そして問題の債務は1.5兆ドルにすぎない。
 2008年末「TARP Bail Out Bill(紛争資産救済プログラム法)」が制定され、破産した銀行や企業に8,000億ドルの救済融資が行われた、と発表された。
 これは真っ赤な嘘だった。なぜなら、ゴールドマン・サックス一社だけで、FRBから8,140億ドルの融資を受けている。FRBは、シティ・グループに2.5兆ドルを融資しており、モルガン・スタンレイは2.04兆ドルを受取っている。スコットランド銀行とドイッチェ銀行合わせて、1兆ドルを受取っている。これらを総計すると、16兆ドルにのぼる。
 Sanders 議員は「これは金持ちのために社会主義だ」と述べている。
 保守的なJim DeJint(共和党・ノースカロライナ州選出)やRon Paul(共和党・テキサス州選出)と、社会主義派を自称する Bernie Sanders議員などが一致してFRBと戦っている。下院では、すべての共和党議員と進歩的なDennis Kucinich 議員などが共同でFRBを監査する法案を提案した。これには、右も左もないことが判るだろう。

資料
Citigroup 2.5兆ドル
Morgan Stanley 2.04兆ドル
Merrill Lynch 1.949兆ドル
Bank of America 1.344兆ドル
Barclays PLC 8、680億ドル
Bear Sterns 8,530億ドル
Goldman Sacks 8,140億ドル
Royal bank of Scotland 5,410億ドル(英国)
JP Morgan Chase 3,910億ドル
Deutsche bank 3,540億ドル(ドイツ)
UBS 2,870億ドル(スイス)
Credit Suisse2,620億ドル(スイス)
Lehman Brothers 1,830億ドル
Bank of Scotland 1,810億ドル(英国)
BNP Paribas 1,750億ドル (フランス)