2011年9月
北沢洋子
1.東チモールNGOの反債務声明
11年9月、東チモールのNGO「反債務運動(La’o Hamutuk)」と米国に本拠を置く「東チモール・インドネシア行動ネットワーク(ETAN)」は、共同で「東チモールは外国からローンを受けるな」という声明を出した。La’o Hamutuk は「債務は、東チモールの将来を危なくする」と説明した。
実は、09年の末頃から、東チモール政府が、いくつかの外国の政府や国際金融機関から融資を受けるために、法律を制定し、同時に交渉をはじめていた。その結果、今年には、融資が実現しそうだ。しかし、これは大きなリスクを伴う。
これまで、途上国、とくに最貧国政府は、先進国政府や国際金融機関から融資を受けてきた。これらの融資は、社会の開発や人びとの基本的なニーズにではなく、一握りの金持ちを潤しただけで、結果として、債務の返済に苦しむことになった。これは、すでにジュビリー2000の債務帳消し国際キャンペーンで明らかにされたことであった。
2.東チモールは債務無しの独立
幸運なことに、東チモールは、対外債務無しの独立をはたした。
しかし、東チモールが産油国であるということは、ある意味では、不幸なことであった。2004年、政府は、財政を満たすために、石油の輸出収入を担保に、外国政府や国際金融機関などから、融資を受けるように圧力をかけられた。当時の首相マリ・アルカティリは、この圧力に抵抗した。
今日、東チモール政府は、長年の夢であった高速道路、空港、発電所など巨大プロジェクトの建設を実現すべく動き出した。これら巨大プロジェクトの建設は、当然のことながら、外国企業が実施する。
これら巨大プロジェクトの建設は、政府や住民に誇りを与えるが、しかし、東チモールの経済を発展させることにつながらない。
東チモールのような石油輸出に依存している国は、外国から借金をするという誘惑に晒されやすい。なぜなら、石油の収入は、「不労所得」であるからだ。しかも、東チモールのような埋蔵量に限りがある産油国は、石油収入は、毎年減って行く一方、債務返済は続く。東チモールの石油の埋蔵は、15年で枯渇するといわれる。将来世代が、この債務返済の重荷を背負っていかねばならない。
3.石油基金をめぐる陰謀
2005年、国際NGOの「Oilchange international」は、「債務に向かう油田掘削」と題する報告書を発表した。そこには、産油国と債務について、どのような危険と結果があるのか明らかにされている。東チモールは、このような貴重な経験に学ばねばならない。
2009年、東チモール議会は、「第13号決議」を採択した。これは、「大蔵大臣は、政府に代わって、外国から借り入れ、あるいは贈与を受けることが出来る」と書いてあった。
同時に、世銀、JICA、アジア開銀、中国、ポルトガルなどが、東チモール政府や議会に融資を申し出た。
これに対して、La’oHamutuk は、「すでに石油収入による石油基金は50億ドルに達しており、どうして、外国から借金をしなければならないのか。外国からの融資は、債務を返済できる持続可能な開発に使われない。第13号決議は、外国からの借り入れについてだけしか規定されておらず、どのように債務を管理していくのか、明らかにされていない」と疑問を投げかけ、「議会が債務を監査し、モニターし、債務額の上限を決め、さらに融資条件や返済方法などに関する融資協定を批准するなどの権限を持つべきだ」と主張した。
さらに「石油基金を外国からの融資の担保にすることを禁じた2005年の石油基金法を支持する。政府は、一方では、外国から借金し、同時に国内では石油代金を貯蓄していることはおかしい。勿論、石油基金を担保にした外国からの借金はしてはならない。なぜなら、石油基金が、債務返済に充てられることになるからだ」と述べた。
2010年、「石油基金法」は改正された。これによって、石油基金は、より危険な、しかしより多くの見返りが期待される部門に投資することが可能になった。
4.東チモールは持続可能な開発が可能だ
東チモールは、「紛争後の低所得国」の範疇に入る。人口の50%は、貧困ライン以下の生活水準にある。識字率は50%に達しておらず、幼児死亡率は高い。人口増加率は3.2%である。毎年、労働市場に参入する労働者は15,000人だが、雇用は、とくに私企業部門で低い。東チモールのインフラは、ひどい。道路は舗装されておらす、雨季には運行不可能である。1999年のインドネシア軍による虐殺で、経済は破壊されたままになっている。とくに南部海岸地方の灌漑を、早急に改修しなければならない。遅行の小学校の校舎の建設は急務である。
東チモールの主な財源は、チモール海のBayu Undan油田で採掘されている石油である。石油輸出の代金は、ニューヨークの連邦準備制度理事会(FRB)の「短期米国財務省債権」に預金される。毎年、東チモール政府は、「石油基金法」に基づいて、毎年、「推定持続可能な収入(ESI)」の3%を財源に引き出すことが出来る。この慎重、かつ有効な政策の結果、2009年半ばまでに、ESIは50億ドルに達した。現状の石油資源から見て、今後ESIは、25億ドルを貯蓄に回すことができるだろう。これに他の国内所得1億ドルを加えると、毎年、開発投資予算に6億ドルを充てることができるだろう。
人口100万人の東チモールにとって、年間6億ドルの予算は、適切に、有効に使われれば、充分だと言えよう。しかし、「石油基金法」によって、政府は3%以上引き出すことが可能になり、このままでは、いずれ、石油基金は枯渇するだろう。