2012年12月4日
北沢洋子

1.エジプト政府のIMF融資についての言い分

11月26日、エジプト政府は、「アラブの春」以来2年間に及んだIMFとの交渉の末、融資受け入れに合意した。IMF側は理事会が承認し、エジプト側は、大統領の署名と批准で発効した。エジプトでは、数ヵ月前に議会が解散されたので、大統領に行政権と立法権が集中している。

大統領は、IMFのローンによって、財政危機と金融危機を解決できると考えている。実際、エジプトは、前期の会計年度には財政赤字がGDPの11%に上り、今年度は13%に達すると予想される。

さらにエジプト経済は、貿易赤字と、巨額の資本の海外逃避と、外国資本の投資が伸びやんでおり、観光部門の停滞のために、深刻な外貨不足に見舞われている。政府は、これをIMFローンが解決してくれると期待している。

政府は「エジプトの債務は巨額でないので新たにローンを借りても大丈夫だ」と言う。しかしエジプトの債務総額は320億ドルに上る。これは巨額である。また、エジプト国内の利率に比べて外国からの融資の利率ははるかに安い、と言って、IMFの融資を正当化している。さらに、IMF融資は、他の国際金融機関からの融資を受け易くし、それが、外国投資を誘引すると言っている。

2.IMFは財政赤字の補填

しかし、いくつかの理由によって、IMFローンはエジプトの経済危機を解決するものではないことが判る。

第1に、IMFのローンは300億エジプトポンド(49億ドル)である。これは、政府が本格的に構造改革を行わなければ、現在の財政赤字を埋めるには程遠い額である。なぜなら、今年度の財政赤字は1,700~2,000億エジプトポンドに上ると見込まれているからである。

第2に、IMFとの融資協定が、他の国際金融機関からの融資受け入れを誘発したとしても、すべてが財政赤字の補填に向けられてしまう。それでは、予算の削減以外に方法がないだろう。なぜなら、新生エジプト政府は、エネルギー部門に対する補助金、為替レート、徴税制度などといった重要な問題を解決する能力に欠けているからだ。

これを解決するには、中長期の財政支出計画が必要である。そして、これを成し遂げるには、新政権の確固とした政治的意思と、幅広い社会的、政治的勢力を動員しなければならない。これは、新政権には欠けている。

また、これは、IMFから独立して、自力で取り組まねばならない。しかし、IMFのローンを受け取れば、自主的な政策決定は出来ない。

第3に、政府は「IMFのローンはエジプト経済が回復に向かっており、政府が明確な経済政策を持っているということを証明するものだ」と主張する。そして、これが、「エジプトへの外国資本の投資を誘い、エジプト経済の成長をもたらす」と期待している。しかし、IMFのローンだけが、外国資本の投資を誘発するものではない。ほかに、政治の安定、国際金融危機、国内治安と言った複雑は要因があることを忘れてはならないだろう。

IMFの融資は、エジプトの財政危機を解決しない。むしろ、IMFローン協定によれば、政府は間接税(消費税や関税など)の引き上げ、補助金の廃止、エジプトポンドの切り下げなどを実施しなければならない。これがもたらす結果は、自明のことである。物価は高騰し、つけは人びとにしわ寄せされる。さらに、「アラブの春」が勝ち取った「民主主義」の後退に繋がるだろう。