2015年5月18日
北沢洋子
1.ヨーロッパで初めて債務監査
今年2月、ギリシャの与党SYRIZAによって、ギリシャ議会の議長にノミネートされ、300票中236という圧倒的多数で選出されたZoe Konstantopoulou(Zoe K)は、4月4日、議会の中にギリシャの「対外債務の監査委員会」を設置した。それは、またの名を「債務の真実を追求する委員会」と呼ばれる。
4月6日、彼女は、委員会がギリシャ人と外国人で構成され、「ギリシャの債務の中で、どの部分がIllegal、Illegitimate、Odious、Unsustainableであるかを検証することが主な任務である」と語った。
これはまた、ギリシャの債務の真実を明らかにすることである。そして、結果が、ギリシャ議会、EU議会、EU加盟国の各議会に伝えられ、ギリシャ国内と国際世論を巻き起こす。Zoe Kは、「債権者の無理な要求で、ギリシャの市民がいかに苦しんできたかを、知ることになる」と語った。
Zoe Kの提案は、Prokopis Pavopoulos 共和国大統領、Alexis Tsipras首相も閣僚もともに、このイニシアティブを支持する議会演説を行った。Zoe K は、続いてSofia Sakorafa議員に発言の場を提供した。彼女は債務の監査委員会の設置を要求してきた人々の5年間に及ぶ長期の裁判を物語った。監査委員会のメンバーは;
Cephas Lumina 対外債務が人権に及ぼす影響についての元国連専門家、
Margot Salomon ロンドン大学経済学部人権研究センター所長
Maria Lucia Fattonrelli エクアドル債務監査委員会のメンバー、ブラジルの市民債務監査運動のコーディネーター
債務監査委員会のいくつかの原則
Illegitimate Debt:政府が公共の利益を考慮せずに契約したプロジェクトによる
Illegal Debt :当時の民主的制度に違反したプロジェクトによる
Odious Debt : 基本的人権(社会的、経済的、文化的、市民的、政治的権利)に違反した契約による
Unsustainable debt:債務の返済が、基本的人権を侵害する(人びとの生活水準の急激な悪化、医療保険、教育などへのアクセスを失う)場合、つまり、債務を返済することによって、政府が市民に基本的なサービス(良い健康制度、良い教育システム、良い社会的保護、十分な賃金、年金)を提供できない
一口で言えば、基本的人権に違反するすべての債務である。
債務監査で重要なことは、市民の参加である。
2、ギリシャ融資のさまざまな不正行為
ギリシャの債務は、IMFの介入が始まる以前の2009年にはGDPの113%であった。しかし、EU、ECB、IMF(トロイカ)のメモランダム以後の2014年には175%に増大した。この急激な増加をどう説明するのか。これには、どのような違反があったのか。
ここに、EUの機能についての協定がある。その125条には、EUメンバー国は、他の国の財政・金融に関与することを禁じている。ギリシャのケースは明らかにEU憲章に違反している。
2010年、EU14カ国の名において、IMF、EU ,ECBがギリシャに539億ユーロを融資した。ここでは、借り手、すなわちギリシャの了解をとっただろうか。貸し手が高い利子など、一方的な条件を押しつけただろうか。EU14カ国はそれぞれ2国間で、自国の法律に従ってギリシャに融資をした。この場合、借り手のギリシャの法律は考慮されただろうか。
債務監査でもう1つ考慮しなければならないのはIMFである。2010年5月9日、ギリシャに対する融資をめぐって、理事会内で、ブラジル、スイス、アルゼンチン、インド、中国の理事が留保した。それは、「ギリシャに課せられた緊縮政策のもとでは、到底融資の返済は出来ない」というのがその理由であった。
最近、ブラジルのPaulo Nogueira Batista理事が、「IMFの理事たちは、ギリシャに対する融資が、実際には、ドイツとフランスの銀行を救済するためだということを知っていた」とリークした。実際、当時2010年は、IMFの専務理事だったドミニク・シュトラウス=カーンはフランスの大統領選挙に出馬するために忙しく、IMFの仕事はほったらかしだった。ドイツの銀行は、金融に弱いメルケル首相を「ギリシャの債権が不渡りになれば、恐ろしいことになる」と脅かした。そして、トロイカの2010年のギリシャ救済融資は見事、とくに独、仏の銀行の債権がトロイカ、すなわちIMFの公的債権にすり替わったのであった。